プロフィール

高遠ユミ(yumi131ff)

Author:高遠ユミ(yumi131ff)
FC2小説で主にR-18作品を公開しています。ブログのテーマはエロいこともあればエロくないこともあります。作品は下のリンクよりどうぞ。


リンク


アクセスカウンター


最新記事


最新トラックバック



そろそろ秋の気配が近づいてきたようでもあり、しかし晴れるとまだ猛暑だったり。いっそ暑いときには怖い小説でも読んで涼んでみてはいかがでしょうか。

面白い。怖い。唸る。止まらない。
全体的にユーモラスでありながら時どき背筋がゾーッと冷たくなる、
中島らもの「ガダラの豚」 (第47回日本推理作家協会賞受賞作)

gadara1.jpg

今回久しぶりに読み返してみましたが、やっぱり面白い! 
93年頃の小説で、登場人物の冗談めかした会話のセンスはさすがにちょっと古さを感じるものの、読み出したら止まらない。三巻まであるのに一気に読めてしまいます。

中島らものウンチク炸裂、呪術、奇術、宗教、心理学、哲学の知識をちりばめつつ、きっちりひとつにまとまった傑作エンタメ小説です。


<あらすじ・第一部>
民俗学の大生部(おおうべ)教授はアフリカの呪術の研究で素晴らしい業績をあげていたが、その著書は興味本位なオカルト風に売り出される。意に沿わぬバラエティー番組に駆り出され、元超能力少年・清川や、超能力のインチキを看破するミスター・ミラクルらと共演する。
研究費を捻出するため「タレント教授」の身分に甘んじる大生部は、8年前にケニアでの事故で長女・志織を亡くして以来アルコール依存症だった。

かつて同じ民俗学を研究していた妻の逸美(いつみ)も事故以降うつろな年月を過ごし、夫婦間は冷え切っている。そんな両親の間で素直に育つ息子の納(おさむ)。
ある日逸美は近所の主婦に誘われ、新興宗教の会合に出掛ける。学者の端くれとして非科学的なものに懐疑的だったにもかかわらず、教祖の「奇跡」を目にし、また、教団の自己啓発システムの面白さにのめり込み洗脳されてゆく。
妻の異変に気づいた大生部は、宗教団体の正体を暴くべく、ミスター・ミラクル、助手の道満(どうまん)に協力を求め─。

<第二部>
テレビ局のプロデューサー・馬飼(まがい)の発案で、特番撮影のため大生部一家は道満、清川と共に、忌まわしい思い出の地ケニアへ旅立つことに。最終目的地は、村人全員が呪術師という一族の村・クミナタトゥだ。
日本語が流暢なガイド・ムアンギに導かれ、大都会ナイロビの裏の顔や大自然に触れるうち逞しくなってゆく納、道満、清川、逸美。しかし行く先には不吉な前兆があり、かつて大生部がフィールドワークを行ったクミナタトゥの人々は、邪悪な力を持つよそ者の呪術師・バキリに怯えて暮らしていた。周囲の警告にも関わらず、大生部ら一行は強大なキジーツ(呪具)を持つというバキリに会いに行き、惨事を招くことに─。

<第三部>
煩雑な手続きの末、やっと日本へ戻った一行。馬飼は責任を取って局を退社・独立し、大生部はアルコール依存の治療を決意する。
平穏な日常を取り戻しつつあった彼らの前にバキリの影が忍び寄り、再び恐怖が襲い掛かる─。

gadara2.jpg

三部合わせてひとつの物語ですが、第一部の新興宗教編、第二部のアフリカ編、ホラー&スペクタクル編の第三部と、どこが一番好きかは読者の好みが分かれるところ。私は最初に読んだときからアフリカ編が大好きで、土地に根差した「呪術」というものの合理性や、呪術師たちの哲学、キリスト教宣教師の傲慢さと矛盾など、非常に面白く読みました。
「先進国」に住んでいたって丑の刻参りをする人は存在するし、人は切羽詰まると藁にもすがる思いで占いやまじないに頼るもの。

呪術というのは水面のようなものだというバキリ。

「私らは水面というのがどういうものか知っている。しかし、手をゆっくり近づけていくと、たしかにある瞬間水の表に手が当たるのだが、よく見れば、上の空気と下の水があるだけだ。水面というものはない。それは、ただの〝境〟であって無いけれども有るものだ」

「この水面の下にずっといれば人は死ぬ。水面から顔を出せば生きられる。しかし、水がないところで人は生きられない。呪術というのは、この水面の鏡のようなものだ。我々が生きていくところには必ずある。それは正でも邪でもない。ただただ、人のいるところにあるものなのだ。不幸と死のない人生がないのと同じように、呪術のない世界というのもまた、無い」

現代科学も薬学も網羅し、情報やコネクションを利用し、力をより完璧に見せる能力に長けたバキリの巧妙さと不気味さ。

現地のおばさんたちを見て、同じ主婦として共鳴するものを感じる逸美は思う。

「この人たち、たぶん自分の周囲百キロくらいから外へ出ることもなくて一生を終えてゆく。明治大正の農家の主婦がそうだったように。土と、人と、自分との関係が濃い。そこでは羊一頭死んだことがとんでもない大事件になる。呪術にもし実際の効力があるとしたら、そうした関係の濃密さの上になりたっているはずだわ」

gadara3.jpg

久しぶりに読むと、第一部の、宗教団体が人を洗脳してゆくシステムというのも改めて面白く、インチキ教祖、導師たちが語る説法なんて、そこらへんの人が語っても「素晴らしい言葉! 救われる!」なんて、素直な人ほど感動してついていきそうで、ポジティブな言葉のマジックというか、恐ろしさも感じました。

日本語の「話す」という言葉はもともと「放つ」から来ているとか、ユリ・ゲラーの、「テレビの向こうの壊れた腕時計を直す」のタネ明かしというのも、この本で初めて知りました。

個性的なキャラクターも満載。

目的が見い出せず現実と折り合いをつけるのが下手な清川。
温和な性格だが内側に眠る闘争心が目覚めゆく道満。
見違えるほど強くなってゆく逸美。
自称「色情狂」のセラピスト、セクシーな秋山ルイ。
元アイドルの毒舌タレント・石野ふるみ。
そして、大生部家の血に秘かに受け継がれていた、ある力。

この本はなるべくネタバレしたくないので、お口にチャックですが、冷静に見ると大生部一家のためにどれだけ多くの人が犠牲になったことでしょう。ああ、その人まで、そんな、ああ…。

ある友人は第三部がお気に入りだったようですが、夜ひとりで読むのが怖くて24時間営業のファミレスへ持って行って読んだそうです。

本気でおススメ! ジャンル不問でとにかく面白い本が読みたいと思ったらぜひ読んでみてください。

巻末の参考資料の量もすごくって、故・中島らも氏はやっぱり変態っていうか、奇人で才能あふれる人だったのだと思います。本書でも主人公の大生部教授がアルコール依存症ですが、著者自身の依存症治療の体験をもとにした「今夜、すべてのバーで」も激面白かった。

ramo1.jpg


↓ ※【kindle版】


↓ 【集英社文庫三巻セット】

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿



管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://roissy1369.blog.fc2.com/tb.php/139-98fc10cc

 | ホーム |