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高遠ユミ(yumi131ff)

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巷では芥川賞を受賞したピース又吉じゃないほう、羽田圭介のキャラクターが面白いとテレビに引っ張りだこだなんてまったく知らなかったのですが、本屋に平積みしてあった「ワタクシハ」を何気に手に取ってから続けざまに数冊読んでしまい、その後、YouTubeでバラエティー番組出演時の濃いキャラクターを知りました。

今のところ、芥川受賞作の「スクラップ・アンド・ビルド」、「不思議の国の男子」(「不思議の国のペニス」より改題)、「メタモルフォシス」を読み、このブログ的にはSMを扱った「メタモルフォシス」を取り上げるべきところかもしれませんが、今回は、一番最初に読んで印象深かった「ワタクシハ」(野間文芸新人賞候補作)を。

「大企業の社員として名もなき年収一千万を目指すか、ギタリストとして名のある貧乏人を目指すか」

〈あらすじ〉
高校時代にテレビのオーディション番組で天才少年ギタリストとしてメジャーデビューした太郎。同じ番組で勝ち抜いたメンバーで構成されたバンドは一時的に脚光を浴びたものの、今は世間から忘れられている。現在大学生の太郎の周囲は就活の真っ最中。アナウンサーを目指す恋人の恵につられ、なんとなくアナウンサー試験を受けてみるが、「元天才少年ギタリスト」の肩書きも珍しがられこそすれ、それで受かるほど甘くはなく─。

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高校生という若さで世間に注目され、売れなくなった現在も大学生という、後戻りがきかない年ではないというか、むしろ周りのみんなはこれから世間に出て行く年頃。
好きな道を極めるか、安定を取るか、バンドマンに限らず、芸術や文学の道を目指す、または目指したことがある人が一度ならず通る道。
昔堅気の人なら「安定」なんてカッコ悪いぜ、と貧乏することに美学さえ見出すところかもしれませんが、このご時世、手堅いほうも捨てがたい、という気持ちもわかる。若いときはともかく、ある程度の年齢でお金がないのは本当に気持ちがすさむし、そこから良いものを生み出すというのも難しくなってくると思う。

17歳で作家デビューし、一度は就職したという作者と重なる部分も多いと思われ、「メタモルフォシス」収録の「トーキョーの調教」でもアナウンサーという仕事が出てくるところをみると、実際に「高校生で作家デビュー」という肩書でアナウンサー試験を受けたことでもあるのでしょうか。

アナウンサー試験に合格したらもう滑舌練習なんかしない、という恵の言葉に驚く太郎は売れなくなった今もギターの練習を毎日欠かさない。一日休めば七日分後退するというストイックさはデビュー前から変わらない。技術的には以前よりずっと向上しているにもかかわらず、「昔のほうがよかった」といわれるジレンマ。これは現実に文学・音楽・芸術を生業としている人に共通するのでは。
面接で「どんな困難を乗り越えたのか」と訊かれ、困難とは、乗り越えるべき壁が見えない今の状態だと内心思う太郎。

真剣に試験に挑む割に、どこか浮ついて見えてしまう恵の姿。
大のテレビ好きで制作を目指しているが、おそらく試験には受からないだろうと太郎が予測する友人兄弟。
「良き視聴者は、良き視聴者のままでいるべきだ。下手に作り手に回ろうとしても、世間はそれを求めていない」
これ、何の分野でもいえるセリフですよね~。オタク並みにその世界に詳しく、その世界を愛しているからといって、作り手に向いているとは限らない。

同じ大学にいる人気上昇中の美人モデル林さん。
「既に快楽を知り、これからも快楽を知ってゆく者特有の、くもりのなさ。快楽が保障される限り、人は驚くほど純になれる。かつては自分もそうであった」

面接に赴く面々の、マニュアル化された態度や質疑応答。判を押したように元気に挨拶する就活生を見て、太郎はかつて駅の駐輪場で自分以外の誰も管理人に挨拶しなかったことを思い出す。
「誰もが一様に髪を黒く染め、それまで大学の自由な時間で培ってきたはずの様々な経歴を黒いスーツで抹消しているかのようであった。いや、むしろ逆で、皆はこの三年間で何かしていたようで、結局のところ何もしてこなかったのかもしれない。どんなに遊んできた者やどんなに資格の勉強なんかしてきた者も、ここでは全員同じ顔に見えた」

さらにアナウンサー以外の職にもエントリーしてゆく。
大手広告代理店の試験で、
「いかにもクリエイティブぶっている連中を見ると、太郎はイラついた。(中略)風変わりなメガネや私服、スーツの洒落た着こなし方……連中は創作の地味さを理解していない」
と手厳しい。

どんな世界も、どんなに努力しても、努力が認められるとは限らない。
「鍛錬の末に超速弾きでギターが弾けるようになっても大衆の心を摑めるかはわからないし、何度エントリーシートの添削や面接練習を重ねても選考を経て内定をもらえるかどうかは全くわからないのだった」

努力だけなら自信のある太郎。
「努力、だけしか通用しない世界で太郎は生きたかった」

就活の常識、飛び交う情報、まことしやかに囁かれる裏情報。
しかし勝者は太郎に語る。
「他人のやることを一々把握したがるなんて、自分の自意識の大きさにさえ気付かない厄介なマジョリティだ」
「孤独に、真に生産的ななにかへ没頭して、ボンクラどもとおさらばしたくはないのかい?」

黙々と勉強していた連中はお洒落スポットなんか何も知らないが、専門分野のことは知識ではなく技として身につけ、高給取りの仕事にありつき、結果、女とも苦労せずヤれる。

「情報を摑んでいるはずの物知りたちはなにもできない。それ(情報)がゴミだからだ。ゴミ集めて満足しちゃってるからだ。せいぜい最新モバイル機器のGPS機能を使い常に自分の現在地でも調べていればいいよ」

うーん、実際にそういう人、いますね。(うちの職場にもいる)最新ツールを次々取り入れることで満足して結局何事も成しえていないという。ゴミ情報を集めて、というのは自分も耳が痛いけど。多すぎる情報に左右されすぎなんですよね。

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男性作家の小説というのを最近読んでいなかったのですが、現代の男性目線から見る女性の姿というのも新鮮でした。

恋人・恵が作ってくれる手料理。本人はきっと冷蔵庫の残り物で手早くササッと美味しい料理、という女子力の高さをアピールしたかったのだろうけど、
「どれも美味しかった。手間がかかっていて、材料にもこだわっている。反面、毎日料理している人間の作る料理ではないとも感じた」

実は節約中で、一週間分の食材を丸ごと勝手に使われてしまった太郎は内心イラつく。かといって、男がそういう細かいことを口にすればセコイと思われ不和を招くのは目に見えているしね。男性ってそういうとこ損よね。
以前友達がつき合っていた彼が、スーパー行くのに惣菜が値引きになる夕方しか行かないというのを「女の子ならわかるけど、男がそういうのってみみっちくてすごくイヤ!」と愚痴っていて、そういうところで結婚対象から外れたというから男も大変。でも、羽田圭介みたいな男性には女もいろいろ見透かされているというか、男性には男性の目線がありますね。

女性はよく「生理的に」という言葉を使うけれど、羽田圭介の小説は今どきの男性(羽田圭介みたいなタイプの男性)の生理がチラチラ垣間見える。男性の心理を解りたいという女性も読んでみると良いのではないでしょうか。

「ブスのくせに」アナウンサーを目指す城山さんを陰で「ブス山さん」と呼ぶ男子学生たち。
美という武器を持ちながら、その限界も知っている林さん。
「美しいなんて、変人だ」

単なる会社の歯車として平凡な人生を送りつつも年収900万を稼ぐ父。
なぜ面接に落ちたのか、知人が落ちたときはその理由がわかる気がするんだけれど、自分が落ちたときは「なぜだ?」と思うもの。
 帯にもありますが、就活生もその親も、これからの人も、もう終わった人にも、もちろん転職組にもおススメします。

章ごとの場面変換が若干ぎこちない気がするのと、漢数字の「十」を使わない人らしく、たとえば「ニ三」と書かれると「ニ、三」なのか「二十三」なのか一瞬わかりにくかったけど、全体的に読みやすかったです。

果たして太郎の就職やいかに? 続きはぜひ本編を読んでみてね。
他の作品も近いうちに。

↓ 話題のデーモン閣下メイク

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