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高遠ユミ(yumi131ff)

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「セックスなんてよくできるわね、あんな汚いこと」

近未来。
若者の性離れが進み、大半の人がセックスをしなくなった世界。
人工授精の技術が飛躍的に進み、もはや不衛生なセックスなどする必要もなくなった。
必ずしも男女のパートナーを必要としないため、家族の捉え方が多様化し、また結婚や家族を不要とする人たちも増えている。

という、突飛なようで実はそうでもない、私たちの世界はすでにこういう方向へ向かいつつあるのではないかという気もする、村田沙耶香の「消滅世界」。


「私たちは進化の途中なの。いつでも途中なのよ」
「だから世界と符号していようが、いまいが、偶然にすぎなくて、次の瞬間には何が正しいとされるかなんてわからなくなっているのよ」

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〈あらすじ〉
雨音(あまね)は母親から、自分は両親が愛し合い、セックスで生まれた子供で、雨音もいつか好きな人と出会い、愛し合い、子を産むのが正しいのだと繰り返し聞かされて育つ。
人工授精が一般的になっている世界、自分が昔ながらの「交尾」で生まれた子供であると告げると、周囲は戸惑いながら「昔はみんなそうだった」と優しく気遣ってくれる。
自分の「正しさ」を植え付けようとする母を疎ましく感じながら成長する雨音。

恋愛そのものがすたれ、アニメや漫画のキャラクターに恋する若者が多く、人間同士で交際してもセックスする人は少ない。雨音は、人ともキャラとも恋をし、セックスもする。
人生のパートナーを求め婚活パーティーで知り合った男性と結婚。最初の結婚は、夫のある行動から破綻。二度目の結婚相手・朔(さく)は理想的な夫だ。
夫婦といえど、「家族」とのセックスは近親相姦とされ、夫婦それぞれに外に恋人を持つ。お互いの恋人を紹介し合い、失恋したときは共に慰め、雨音にとって朔はかけがえのない「家族」である。
友人たちはそれぞれのライフスタイルに合わせた生活を選択し、価値観の違いから内心では結婚やセックスを軽蔑し合い、互いに理解し合えないことに疲れる雨音。

恋愛体質の雨音と朔は外での恋愛が絶えず、恋のために傷つき悩みが尽きない。恋愛と無縁の「家庭」だけが安らぎの場所だ。
やがて疲れ果てた二人は、「恋のない世界へ、二人で逃げよう」と、あるシステムを試みる実験都市へ「駆け落ち」するが──。

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私たちの社会は常に「進化」なのか「退化」なのかわからない変化を続けている。
潔癖症なまでに清潔が好まれ、トイレには便座クリーナーが当たり前に備え付けられ、他人の握ったおにぎりは食べられないという人たちがいる。
60年代のフレンチコミック原作、映画「バーバレラ」でも、やはり不衛生なセックスは時代遅れで野蛮なものとされ、スマートな現代人は肌を合わさず、薬を使用し、手を合わせるだけで確実にオーガズムが得られるセックスをするのが標準となり、昔のセックスをするのは薬が買えない貧乏人だった。

本書「消滅世界」の中では、セックスそのものがすっかりすたれ、今でいえばちょうど喫煙のように、セックスする人たちは一定の割合で存在するものの、少数派であり、軽蔑され、肩身の狭い思いをする。

(実際に私の知人にも、夫婦仲は悪くないけれどセックスレスで、別に不妊体質ではないのに人工授精で子供をもうけたカップルがいる。言わないだけで、もしかしたらすでにそういう人はけっこう居るのかもしれない)

よく倦怠期のオジサンが冗談交じりに「家庭にセックスは持ち込まない」とか、「妻では立たないけど他の女性ならできる」というけれど、ご安心ください、本書の世界では夫婦のセックスは近親相姦に該当しますので、思う存分外で恋愛してください。
雨音のお母さんが言うように、「昔は兄妹でも結婚したのよ」というのを考えれば、夫婦間のセックスがタブーになる日だって来るかもしれない。

古いおとぎ話のような恋愛と結婚を押しつける雨音の母親は、現代の感覚でいえばこれこそ「正常」のはずなのに、どこか薄気味悪くさえ感じる。

「世界がどんなシステムになっても、違和感がある人は一定数いて、そのパーセンテージって同じようなもんじゃないかって気がするのよね」

終盤で雨音が語るこの↑セリフがこの物語のすべてである気もする。
この小説を読んで、「まさか。どんなに時代が変わっても家族の絆は不滅に決まっている」とか、「自分の血の繋がった子供が大事に決まっている」と思う人ほど、世の中の常識を刷り込まれやすい人で、時代が変わればあっさりその時代の常識に組み込まれるタイプかもしれない。

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雨音が同級生や会社の同僚と話すたびに感じる違和感、疎外感。
決して埋まらない価値観の溝。話しても理解されないであろうもどかしさ。
こういう気持ちを日々感じている人は今もいるはず。言っても理解されないだろうから黙っている人たちが、どの時代にも必ずいる。

恋愛至上主義の現代では、恋愛しない・結婚しない人はいつでも「どうして?」と訊かれ、恋愛・結婚しないことは人間として一人前でないとみなされる。私も恋愛は苦手で、その楽しさも知っているけれど、消耗の激しさや自分が否定された時のダメージはハンパない。人の恋愛話を聞いたり、映画や小説として傍観する恋愛は楽しいが、自分でするのは大変疲れるので、むしろこの小説のような時代がきてくれたらラクかもしれないと思う。
「ひとり」で生きることが「寂しい」とか「孤独死」とかに結びつけられるのだって、誰かの刷り込みではないのか。

時代と共に「新しい生き方」が掲げられては、最先端をゆくような人気タレントが突然若年結婚・出産し「やっぱり結婚っていいよね」と言った途端に、「そうだ、やっぱり結婚が一番幸せなんだ。結婚しなければ」「子供を育てる歓びは何ものにも代えがたいはずだ」と一斉に方向転換する。
もう、幸せの形を誰かに決められるのまっぴらなんですけど…。

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アニメのキャラに恋する後輩アミちゃんが雨音とランチしながらこぼすセリフ:
「日常って、しんどいですよね。私、午前中はずっと『ブルースナイパー』のこと考えて過ごしてたんです。昨日の戦いかっこよかったなあとか、新しいオープニング最高だったなーとか。なんか、そういうことに救われてる。生きてく元気をもらってるんですよね」
欠点が見えすぎる身近な人よりも、二次元や、あるいはテレビやPC画面の向こうの人に疑似恋愛してその人の活躍や言葉に救われるというのはとても理解できるので、私はすでに未来の人に近づいて「進化」しているのかもしれません(笑)

本書に登場する実験都市のシステムは極端だけれど、「徒競走は手をつないでみんなが一等賞」的な差別のない社会主義的な理想郷を目指したらああいう無個性な世界になるのかもしれません。

過去を振り返れば自分が生まれてからのほんの数十年でもいろんな価値観や常識が変わっているはず。本書は決して「架空の突拍子もない話」ではなく、あと数十年経てば世の中(先進国)はいくらかこの物語に近づいているのではないでしょうか。

必ずしも雨音に共感するわけではないけれど、母と、友人と、夫と、恋人との会話、議論、すれ違い。話せば話すほど自分の中に積もる晴れない靄を、どう感じるか、読んでみていただきたい。読後感は決して良くないと思うけれど、超おススメの一冊です。

直後に似た設定の窪美澄の「アカガミ」を読みましたが、残念ながらこちらはイマイチでした。 「ふがいない僕は空を見た」、「晴天の迷いクジラ」が非常に面白かったので期待したのですが、「消滅世界」と同じように人々の性欲が薄れた近未来を舞台にした普通のラブストーリーでした。存在感が匂い立つような登場人物の立たせ方はさすがだと思いますが、衝撃の薄い「ローズマリーの赤ちゃん」的な話でした。
あくまで個人の感想です。

村田沙耶香 「コンビニ人間」はコチラ

(phot:YASU




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