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高遠ユミ(yumi131ff)

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「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される」

村田沙耶香が芥川賞と聞いたとき、えっ、じゃあ「消滅世界」より衝撃的? 「コンビニ人間」という脱力系タイトルで「消滅世界」を上回る出来なのか? と読んでみました。うん、これもイイ、村田沙耶香!

「皆が足並みを揃えていないと駄目なんだ。何で三十代半ばなのにバイトなのか。何で一回も恋愛をしたことがないのか。性行為の経験の有無まで平然と聞いてくる。『ああ、風俗は数に入れないでくださいね』なんてことまで、笑いながら、言うんだ、(中略)ただ、少数派というだけで、皆が僕の人生を簡単に強姦する」


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〈あらすじ〉※ややネタバレを含みます※

恵子は子供の頃から物事の感じ方や発想が周囲と違い、両親や妹を困惑させた。家族に心配をかけないよう、自分が「治る」ことをひたすら願い、周りと親密になることを避け、ひっそりと成長。社交性に欠けているが、大学生のとき新規オープンしたコンビニのバイトに応募する。マニュアルに沿った元気で笑顔の接客をこなし、初めて自分が正常な世界の一部になったように感じる。
それから18年。恵子はずっと同じコンビニの店員として働き続ける。バイト仲間のお洒落や口調を真似、同窓会で再会した昔の同級生とも会うようになり、普通の女友達との交流を楽しもうとするが、彼女たちから、「その年でなぜバイト?」、「結婚は?」、「恋愛は?」の質問攻め、さらに「誰か紹介しようか」、「婚活サイトに登録したら」と余計なおせっかい責めに閉口する。
コンビニの困った新人バイト、35歳の男性・白羽は、コンビニの仕事をバカにし、屁理屈ばかりで仕事ができない。社会のシステムを憎み、根拠のない自信だけはあるが、世間に出れば傷つくだけの彼。
恵子はそんな白羽に、自分と婚姻届を出さないか、と提案。形だけでも伴侶ができれば周囲から余計な詮索をされずに済むと、白羽を養うことになる。恵子に「同棲する男性」ができたことで、友人たちは大はしゃぎ、妹は「お姉ちゃんがやっと治って普通になった」と喜ぶが──。


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この小説を読んで、ただ「ユーモラスだ」、「シニカルだ」と簡単に笑うなら、あなたは自分のことを、就職も恋愛も結婚も「普通でまともで、人並みな人生送れている人間」にカテゴライズしている人でしょう。そして私のように、滑稽さをかみしめながらも主人公の恵子の気持ちや、白羽の言動のところどころに多少なりとも自分と重なるものを感じ、身につまされる痛々しさを感じた人も実は少なくないのではないでしょうか。

「消滅世界」は、ほとんどの人々がセックスをしなくなった近未来を舞台にし、「周りの人と違う」ことは駄目なのか、というのが本当のテーマだったけれど、今回も基本的にそれは同じ。
「小鳥が死んだら悲しい」、「赤ちゃんは可愛い」、そう思えないのは「おかしい」ことなのか。「こういう場合の感情はこうあるべき」と決められ、そこから外れると家庭環境か人格に問題があると思われる。

恵子が見つけた居心地良い居場所は、コンビニというマニュアルの世界だ。接客も品出しも発注も、マニュアル通りにこなしていれば人間関係が苦手な恵子でも優秀な店員になれた。コンビニの仕事を愛しているし、責任も生き甲斐も持っている。店員同士の人間関係も、少しずつ入れ替わるバイトたちの愚痴に適当につき合っていればよかった。

「コンビニなんか」とコンビニの仕事を見下すコンビニ店員・白羽。
彼の陰口を叩く店長やベテランパートの主婦も、
「35歳でコンビニバイトなんて終わってる」と言う。同じコンビニで働きながら、「店長」や、「主婦のパート」である自分たちは「終わっていない」らしい。

恵子というヒロインは「普通に生きられない人間」として極端にデフォルメして描かれているけれど、「周りの人と違う」、「どうして自分はうまく生きられないのか」と悩んだことがある人なら少なからず共感する部分はあるのではないでしょうか。

私は恵子ほど職場の仕事が好きではないけれど、生活費を得る手段として平穏に会社生活を送りたい。会社の歯車として役に立てていればそれでよいのだけれど、やれ飲み会だ、レクリエーションだと、会社の人たちと仕事以外のお付き合いはなるべく避けたい。だって共通の話題が皆無なんだもの。そして、ふたこと目には、プライベートをほじくりたがり、「なんで結婚しないの」、「彼氏いないの」、「紹介しようか、〇〇部の〇〇君、独身だけど、どう?」が始まる、ああ~ウザい!


「変な人って思われると、変じゃないって自分のことを思っている人から、根堀葉掘り聞かれるでしょう? その面倒を回避するには、言い訳があると便利だよ」
「皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている」

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すっぴんにボサボサ頭、ジーンズで会社へ来るようなオバちゃんも、「一応人妻」というだけで、なぜ上から物を言うのだろう? 
結婚は便利な隠れ蓑で、どんな変わり者でも結婚さえしていれば一応人間合格と見なされるようだ。
結婚生活がどんなに破綻していようが、「いろいろあるのよ、結婚はしてみないとわからないよ」と酸いも甘いも噛み分けた人生経験豊富顔されても、「勢いで盛って失敗しただけだろ」とは、こっちが言ってはいけないルールになっている。

私は面倒なので、プリザーブドフラワーの趣味に没頭していることにすると、「休みの日、何してるの? ひとりでお花、作ってるの? 部屋中いっぱいになるんじゃない?」と半笑い気味に言われるのだ。(もちろん本当はそんなことやっていないし、そんな時間があったらブログの記事でも更新するよ!笑)

昼休み、会社の食堂を陣取り甲高い声で笑い話す主婦パート・派遣の女性たちの中にだって、本当は面倒だから周りに合わせてみんなと同じように話し、同じように笑ってるだけの、集団の中にひっそり身をひそめている人がたぶん、いる。


自意識過剰で典型的なダメ人間・白羽は、
「この世界は、縄文時代と変わってない」
狩りをしない男、子供を産まない女は、干渉され、無理強いされ、最終的には追放される、という。その割に、自分は今にネットで起業し成功して美女を手に入れる、と、嫌悪しているはずの価値観に迎合して世の中を見返そうとする。

ファミレスのコーヒーを、
「不味い。やっぱり駄目だな、こんなところのコーヒーは」
というシーンの、このセリフ上手いなあ。
ドリンクバーのコーヒーなんてオマケぐらいに思って黙って飲むものだ。そんな場所でコーヒーが美味い・不味いと文句をつける、このセリフひとことに白羽という男の人間性も生活レベルも全部表れている。
筋の通らない不満、成功のイメージは貧弱だし、器も限りなく小さい。

でも、そんなダメ人間・白羽のいう矛盾だらけな野望もわからなくもない。一般的な幸福や成功を斜に見ながら、それを「普通」以上に手に入れて見返してやりたいという気持ち。

「さっきまで文句をつけられて腹をたてていたのに、自分を苦しめているのと同じ価値観の理屈で私に文句を垂れ流す白羽さんは支離滅裂だと思ったが、自分の人生を強姦されていると思っている人は他人の人生を同じように攻撃すると、少し気が晴れるのかもしれなかった」

人生がうまくいっていない人間は、他人も不幸になればいいと思いがちだし、また、仕事や恋愛がうまくいっているとき、人は他人に優越感を感じるようだ。(私自身も)
恵子の元同級生やその旦那たちのように、多数派の側にいるとき、人は傲慢で卑しく、偉そうに他人に指南する。不安定な私はあちら側とこちら側を行ったり来たり、うまくいってるとき、ときどきやっぱり傲慢で卑しくなる自分を感じる。

恵子も白羽もピンチの場面でそつのない対応を見せる能力はある。普通の人間の仮面をかぶり、演じることはできるが、素の彼らは他人から認めてもらえない。

この二人が意外とうまくまとまったりすると、「そんなうまくいくか!」と突っ込むところだけれど、そう簡単にまとめないのが村田沙也香で、そうならないから芥川賞受賞。

コンビニ店員としては申し分のない恵子。コンビニ店員になるために生まれてきたような恵子。オリンピックに人生を捧げるのも素晴らしいが、コンビニにすべてを捧げたっていいじゃないか。

社会不適合者として子供は作らず、
「私の遺伝子は、うっかりどこかにのこさないように気を付けて寿命まで運んで、ちゃんと死ぬときに処分しよう」
と決意するのは潔いではないか。

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phot:yasu

そういえば、NHK「あさイチ」で子どもを産まない選択の特集をやったとき、視聴者から届いた、「私の子どもが汗水たらして働いた税金をあなたの老後に使って欲しくない」というFAXが読まれ話題に。
少子化が今の女性の責任だと騒ぐなら、大家族が「普通」だった時代から核家族化した世代に既に責任あるから。核家族化した理由だって、子供の数を少なくして経済的にゆとりある暮らしがしたいからだったはずなのに、独身や子供なしを=自分勝手・悠々自適と決めつける短絡さは何なのだ? 頭悪すぎるよ。
少なくとも私は子供が居なくてもぜんぜん悠々自適じゃないぞ。

最近の私は、「どうして結婚しないの?」と訊かれたら、
「ちょっと特殊な性癖だから」と答えることにしています。


ちなみに、ネットのQ&Aに「『コンビニ人間』はお金出して読む価値ありますか?」という質問を見つけましたが、興味があるなら1300円ぐらい出しなさい。
読書ブログをウロウロすると、「本は高いしかさばるから、私は賢く図書館利用」、なのにアフィリエイトリンクを張って、「私は無料で読んだけど、あなたはお金出して買ってね、私に紹介料入るから」的な人を見かけるけれど、プロの作家は印税で食べているのだから、人に勧めるほど面白い本なら、ちゃんと著者の労力にお金を払って読みなさい。


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